内視鏡下鼻副鼻腔手術(ESS)

2021年7月、当院では手術を安全に行うためにMedtronic社の最新型のナビゲーションシステムを国内で初めて導入しました。

ナビゲーションシステムを用いることで、術前に撮影したCT画像をみながら手術道具の先端の位置を確認します。眼や脳などの危険な構造物を確認しながら安全に手術をすすめることができます。

<適応疾患とその病態・手術の目的> 

(1)慢性副鼻腔炎

副鼻腔炎とは、顔や頭を形作っている骨の中にある空洞を指します。本来、鼻腔と交通し空気が入っているこの空洞に炎症が生じると、空洞内の粘膜が腫れたり、膿(うみ)のような鼻汁が作り出されるようになります。炎症の原因として、細菌感染、ウイルス感染の他に、真菌(かび)による感染もあります。慢性的にこのような状態が続くものを、慢性副鼻腔炎と呼びます。一般的には、内服治療や、鼻の処置、ネブライザー(呼吸療法)などが行なわれますが、これらの治療で改善が認められない場合は手術を行なうこととなります。

(2)術後性副鼻腔嚢胞

過去に広く行われていた副鼻腔炎の手術(粘膜を除去する手術)後に長時間を経て(5~数十年)、手術後の副鼻にのう胞(鼻水を貯めたふくろ)ができ、様々な症状(ほっぺたの腫れ、頭痛、眼の痛み等)を呈する病気です。時間をかけて大きくなるため、炎症が現れるのは病変が相当進行してからになります。感染(ウイルス、細菌などによる炎症)により急にサイズが大きくなることがあり、その場合急速に症状が出現することがあります。周囲への圧迫が強い場合、重要な器管(眼など)を損傷する可能性がある場合などは、手術によりのう胞の開放が必要になります。

(3)肥厚性鼻炎

鼻腔粘膜(主に下鼻甲介)が肥厚し、点鼻液を含む薬に反応しなくなり、鼻閉の改善がない場合に、粘膜の除去等を行い鼻閉を改善するために行います。

(4) 鼻腔腫瘍

一般的に良性腫瘍には、乳頭腫・肉芽腫・血管腫が主に発生します。乳頭腫は一部悪性化するものもありますので治療の第一選択は手術です。小さい腫瘍であれば当院でも手術可能です。血管腫については、大出血のリスクを伴い、術前にカテーテル塞栓術が必要になる場合もあるため当院では治療を行っていません。

<麻酔方法>

当院では、局所麻酔のみで手術を行なっております。3,000倍希釈のボスミンと4%キシロカイン等量にひたしたガーゼを鼻腔内に挿入し麻酔します。

必要に応じて、0.5%キシロカイン(E)にて局所注射麻酔を追加します。

<手術方法>

⑴慢性副鼻腔炎

これまで慢性副鼻腔炎は、空洞内の粘膜の問題と考えられていたために、この粘膜を徹底的に取り除く手術が続けられてきました。しかし最近では、空洞内に空気が入りにくくなることが主な原因であること、そして手術によって空気の出入りが回復すれば多くの例が正常に戻ることがわかってきました。近年国内外で広く行なわれている内視鏡手術は、このような理論に基づいた手術法です。炎症のある副鼻腔炎の自然口(鼻腔と副鼻腔炎との通路)を解放させたり、ポリープを除去することで換気を改善させるものです。これまでの粘膜を取り除く手術に比べて、体への負担も少なく、治療成績も良好な優れた方法です。当院では、入院加療が困難な患者さんや、全身麻酔や入院治療が不要な患者さんに対して、外来日帰り手術を行なっています。

(2)術後性副鼻腔嚢胞

内視鏡下に嚢胞の壁を穿破し、内容物を吸引清掃します。嚢胞と鼻腔との交通路を作成すれば治療終了です。交通路が再狭窄すると再発する場合があります。

(3)肥厚性鼻炎(アレルギー性鼻炎に伴うものを含む)

鼻腔粘膜(主に下鼻甲介粘膜)の肥厚した粘膜をRFナイフで切除し、鼻腔を広くする手術を行なっております。

(4)鼻腔腫瘍

RFナイフ等を用いて除去します。悪性が疑われるものは、当院では手術をしません。

<術前・術後の注意>

・手術予定時間の2時間前より、飲食は避けて下さい。

・当日は、入浴・洗髪は禁です。手術の内容あるいは、合併症の状態によっては、指示あるまで入浴・洗髪の制限をします。当然しばらくの間は飲酒も許可するまで禁です。手術内容にもよりますが、術後は出来るだけ安静にして下さい。

<合併症>

(1)出血:術後の鼻血を予防するため、手術後鼻の中にガーゼを挿入するケースの場合、術後数日たってガーゼは抜きますが、その後出血があった場合、ガーゼの再挿入が必要になります。

(2)感染:手術後、鼻の中に感染が起こることがあります。予防のため、抗生剤を使用致しますが、まれに強い感染が起こることがあり、薬の変更、鼻の処置などが必要になることがあります。

(3)痛み:手術後、鼻や頭の痛みが数日出ることがあります。痛み止めの内服薬を使用致します。

(4)顔面の腫れ、しびれ:手術後一時的に顔の腫れやしびれが出現することがあります。歯ぐきを切る手術を併用した場合、唇からほっぺたのしびれがしばらく(数ヶ月~1,2年)続くことがあります。

(5)目の合併症:副鼻腔は目と近いため、手術による目の障害が起こることがあります。複眼(物が二重に見える)、眼球突出(眼が突き出る)、視力低下、失明、感染などが起こりえます。また、目と鼻をつなぐ涙の通路(鼻涙管)の損傷により、流涙(なみだ目)が起こることがあります。

(6)頭の合併症:副鼻腔は頭と近いため、手術により頭の障害が起こることがあります。障害の内容としては、頭蓋底損傷(頭の骨の損傷)、髄液漏(脳の表面にある液体が鼻の中に漏れる)、髄膜炎(脳を覆う膜の炎症)などの感染、脳損傷などです。

★鼻茸だけの外来手術では上記(1)~(3)が、外来内視鏡下副鼻腔手術で済むような手術は(1)~(5)が起きる

ことがあります。

★肥厚性鼻炎に対する下鼻甲介切除術の場合は、(1)~(3)が起こることがあります。

<手術後治療>

○副鼻腔の手術後では、術後経過を観察することが重要なため、定期的に外来通院していただく必要があります。手術後の経過により、必要な内服薬(飲み薬)や点鼻薬(鼻につける薬)を使用していただきます。経過中、炎症を起こし粘膜の腫れが再発してしまった場合や換気する穴が閉じてしまった場合、追加治療が必要になることがあります。

○鼻茸手術後では、術後経過を観察することが重要なため、定期的に外来通院していただく必要があります。手術後の経過により、必要な内服薬(飲み薬)や点鼻薬(鼻につける薬)を使用していただきます。

<手術以外の選択肢>

手術以外の治療としては、内服(抗生剤、粘液溶解薬、消炎酵素薬、抗アレルギー薬、ステロイド薬)、点鼻液(血管収縮薬、ステロイド)、ネブライザー(吸入)治療、副鼻腔穿刺・洗浄

鼻の中から針で刺し副鼻腔の中を洗う、もしくは洗浄管を使い洗う)などの治療があります。

これらの保存的治療でも軽快しない場合、手術治療が選択肢となります。